デバイス構造比較

n-i-p構造とp-i-n構造の詳細分析

基本構造の概要

正型(n-i-p)構造

金属電極
HTL(正孔輸送層)
ペロブスカイト吸収層
ETL(電子輸送層)
透明導電性基板(TCO)
←光入射方向

歴史的意義

歴史的に最も早く高効率を達成したアーキテクチャで、長らくペロブスカイト研究の主流でした。特定の高性能ETL(例:SnO₂や緻密なTiO₂)との組み合わせで高い電荷収集効率を発揮します。

技術的課題

  • • TCO/ETL界面での光触媒作用による劣化
  • • 光安定性・熱安定性の低下
  • • 高価なHTL材料(Spiro-OMeTAD)の必要性
  • • ヒステリシス現象(I-V測定方向による効率変動)

最新の成果

2024年3月、清華大学が新HTL材料T2と真空蒸着技術により26.21%の認証効率を達成。界面層の最適化によりp-i-n型に匹敵する性能を追求し続けています。

反転型(p-i-n)構造

金属電極
ETL(電子輸送層)
ペロブスカイト吸収層
HTL(正孔輸送層)
透明導電性基板(TCO)
←光入射方向

安定性の優位性

正型構造の課題を克服するために開発され、現在最も有望な商業化経路の一つ。優れた熱安定性、長期安定性、低ヒステリシス特性を持ち、界面欠陥のパッシベーション技術を効果的に適用できます。

製造上の利点

  • • 低温かつ溶液プロセスによる作製
  • • 製造コストの低減
  • • 大面積製造に適している
  • • タンデムセル構築時のトップセルとして適している

効率パリティの突破

過去はn-i-p型と比較して効率が劣る制約がありましたが、界面エンジニアリングの進歩により「効率パリティの閾値」を突破。27.3%(蘇州大学/UNSW 2025年5月)で世界記録を更新し、商業的面積(1cm²)で26.9%を達成する面積スケーラビリティのブレイクスルーを実現しました。

メソポーラス型構造

金属電極
HTL(正孔輸送層)
ペロブスカイト吸収層
メソポーラスETL
透明導電性基板(TCO)
←光入射方向

歴史的意義

2012年頃のPSC研究の黎明期において、効率を飛躍的に向上させた功績があります。多孔質の金属酸化物(通常TiO₂)のナノ構造をETLとして利用し、ペロブスカイト吸収層をその細孔に浸透させることで、電荷収集のための界面積を大幅に増加させました。

技術的限界

  • • キャリア輸送経路の複雑化
  • • ペロブスカイト材料の細孔への均一な充填の困難
  • • デバイスの再現性、大面積化の課題
  • • スケーラビリティ(ロール・トゥ・ロール製造)の制約

役割の変遷

高効率化の鍵が界面積から薄膜の結晶品質と界面の清潔さに移行した結果、現在の世界最高効率競争(27%超)の主流から脱落。2017年7月のUNISTによる22.1%記録以降、記録更新が停止。高温プロセス(450-550℃)が制約となり、フレキシブル基板との適合性やスケーラビリティの課題により、特定のニッチなアプリケーションに役割が限定されています。

詳細比較分析

特徴 正型(n-i-p) 反転型(p-i-n) メソポーラス型
一般的な積層構造 TCO/ETL/ペロブスカイト/HTL/金属電極 TCO/HTL/ペロブスカイト/ETL/金属電極 TCO/メソポーラスETL/ペロブスカイト/HTL/金属電極
一般的なETL材料 TiO₂, SnO₂, ZnO PCBM, C₆₀, BCP メソポーラスTiO₂
一般的なHTL材料 Spiro-OMeTAD, PTAA PEDOT:PSS, NiOx, PTAA Spiro-OMeTAD, PTAA
加工温度 ETLに高温アニールが必要(例:TiO₂で450℃) 低温プロセス対応(<200℃) 高温アニールが必要(450℃)
J-Vヒステリシス イオン移動により顕著な場合が多い 一般的に抑制される、無視できる 中程度(材料により異なる)
安定性 TiO₂のUV劣化、HTLの不安定性 UV/熱により改善(NiOx使用時) TiO₂のUV劣化、複雑な構造
スケーラビリティ 高温工程がフレキシブル基板の障害 ロール・トゥ・ロール製造に非常に適している 複雑な製造プロセス、大面積化が困難
最高効率記録 26.21%(単接合)
清華大学 2024年3月
27.3%(単接合)
蘇州大学/UNSW 2025年5月
22.1%(単接合)
UNIST 2017年7月

材料の詳細分析

層選択

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電子輸送層
正孔輸送層
透明導電膜
ペロブスカイト層
バッファ層
界面特性

n-i-p構造のETL

二酸化チタン(TiO₂)

  • • 高い電子移動度と透過性
  • • ペロブスカイトとの良好な界面
  • • 450℃以上の高温アニールが必要
  • • UV光による劣化の問題

二酸化スズ(SnO₂)

  • • TiO₂の代替品として注目
  • • より優れた熱安定性
  • • 低温プロセス対応(150-200℃)
  • • 優秀な加工性

p-i-n構造のETL

PCBM(フラーレン誘導体)

  • • 有機材料との高い互換性
  • • 溶液プロセス対応
  • • 低温での製膜が可能
  • • 空気中での安定性に課題

C₆₀(フラーレン)

  • • 高い電子親和性
  • • 良好な電荷輸送特性
  • • 真空蒸着プロセス対応
  • • コスト面での課題

透明導電膜(TCO)の役割

光透過機能

可視光を透過させ、発電層であるペロブスカイト層に光を吸収させる

電極機能

電子または正孔を外部回路に輸送させる電極としての役割

特性への影響

TCOの透過率や導電性は太陽電池特性に大きく影響

主要なTCO材料

FTO(フッ素ドープ酸化錫)

  • • 高い耐熱性(約600℃)
  • • 優れた耐薬品性
  • • 表面の平滑性に課題
  • • 透明性は中程度(87%)

ITO(インジウムドープ酸化錫)

  • • 高い透明性(96%)
  • • 優れた表面平滑性
  • • 耐熱性は低い(約350℃)
  • • 耐薬品性に課題

TCOの詳細特性とメカニズム

光学的特性

可視光透過率 85-96%
屈折率 1.8-2.0
バンドギャップ 3.5-4.0 eV

電気的特性

シート抵抗 5-20 Ω/□
導電率 10³-10⁴ S/cm
キャリア密度 10²⁰-10²¹ cm⁻³

製造プロセス

スパッタリング法(200-400℃)
CVD法(500-600℃)
スプレー法(300-500℃)

応用特性

太陽電池の透明電極
ディスプレイの電極
LEDの透明電極

FTO vs ITO 特性比較

特性 FTO
(Fluorine-doped Tin Oxide)
ITO
(Indium-doped Tin Oxide)
耐熱性 高い(約600℃) 低い(約350℃)
透明性 中程度(87%) 高い(96%)
耐薬品性 高い 低い
表面平滑性 悪い 良い
シート抵抗 5-10 Ω/□ 5-15 Ω/□
導電率 10³-10⁴ S/cm 10³-10⁴ S/cm
コスト 低い 高い(インジウム価格)

ペロブスカイト層の基本構造

化学式ABX₃

有機無機ハイブリッドペロブスカイトの光学および電子的特性を示す化合物

Aサイト(カチオン)

  • • メチルアンモニウム(MA)
  • • ホルムアミジニウム(FA)
  • • セシウム(Cs)

Bサイト(金属カチオン)

  • • 鉛(Pb)
  • • スズ(Sn)

Xサイト(ハロゲン)

  • • ヨウ素(I)
  • • 臭素(Br)

結晶構造とトレランスファクター

トレランスファクター(t)

t = (rA + rX) / √2(rB + rX)

rA, rB, rX: ペロブスカイトのイオン半径

0.8 < t < 1.06 ペロブスカイト構造
t = 1 立方晶(Cubic)
0.7 < t < 0.9 正方晶/直方晶

ペロブスカイト層の詳細特性

光学的特性

バンドギャップ 1.2-2.3 eV
光吸収係数 10⁵ cm⁻¹
最適膜厚 500 nm
光吸収効率 >95%

電気的特性

電子移動度 10-100 cm²/Vs
正孔移動度 10-100 cm²/Vs
キャリア寿命 1-10 μs
拡散長 1-10 μm

結晶構造特性

立方晶(Cubic)
正方晶(Tetragonal)
直方晶(Orthorhombic)
格子定数: 6.2-6.4 Å(組成により変動)

バンドギャップ調整

ハロゲン置換(I→Br)
Aサイト混合
Bサイト置換
1.2-2.3 eV範囲

製造プロセス

溶液プロセス
スピンコート(100-200℃)
アニール(100-200℃)
製膜時間: 数分

安定性課題

水分による劣化
熱による分解
UV光による劣化
イオン移動

主要ペロブスカイト材料の比較

材料 MAPbI₃ FAPbI₃ CsPbI₃ MAPbBr₃
バンドギャップ 1.55 eV 1.48 eV 1.73 eV 2.3 eV
結晶構造 正方晶 立方晶 立方晶 立方晶
熱安定性 中程度 高い 高い 高い
水分安定性 低い 中程度 高い 高い
最高効率 22.1% 25.2% 21.1% 18.2%
用途 標準材料 高効率 安定性重視 タンデム用

バッファ層の役割と機能

基本機能

有機分子と対抗電極との界面に挿入される薄膜材料

電子輸送の最適化

n型半導体から対抗電極への電子輸送を効率化

再結合抑制

電子と正孔の再結合を抑制し、効率向上

BCP(バソクロプイン)材料

材料特性

  • • 有機発光ダイオード(OLED)で使用
  • • 電子輸送性能が高い
  • • 再結合抑制効果

バンドギャップ

n型半導体と比較してバンドギャップが広い

応用分野

  • • ペロブスカイト太陽電池
  • • 有機太陽電池
  • • OLEDデバイス

n-i-p構造のHTL

Spiro-OMeTAD

  • • 従来から広く使用されている標準材料
  • • 高い正孔移動度
  • • ドーピングによる性能向上
  • • 湿気と高温での劣化が課題

PTAA

  • • n-i-pとp-i-n両方で使用可能
  • • 優秀な多目的HTL
  • • 良好な界面特性
  • • 安定性に優れる

p-i-n構造のHTL

PEDOT:PSS

  • • 費用対効果が高い
  • • 加工が容易
  • • 溶液プロセス対応
  • • 酸性で電極腐食の課題

酸化ニッケル(NiOx)

  • • 前例のない安定性
  • • 優秀な熱安定性
  • • 高いキャリア移動度
  • • 無機材料の利点

界面での電荷損失

ペロブスカイトと輸送層の界面は電荷損失の重要な部位。 界面欠陥が電荷再結合を引き起こし、開放電圧と曲線因子を低下させる。

欠陥不活性化戦略

  • • 界面添加剤(PEABr, PEABr)
  • • 界面バッファ層(MoS₂フレーク)
  • • 組成工学(Cs, Rb添加)

性能向上効果

界面工学により、HTLフリーの反転型セルで26.4%の効率を達成。 イオン移動防止と電荷再結合低減により安定性も向上。

発電の仕組み

Solar Cell Efficiency Tables (Version 66) 引用情報

本データは Martin A. Green らによる「Solar Cell Efficiency Tables (Version 66)」に基づく引用情報です

ペロブスカイト太陽電池の最新記録

単接合セル最高効率: 27.3%
商業的面積(1cm²): 26.9%
ミニモジュール: 23.9%
蘇州大学/UNSW/白馬湖研究所、Microquanta(引用: Version 66)

タンデムセルの進展

ペロブスカイト/Si (1cm²): 34.85%
ペロブスカイト/Si (大型): 33.0%
ペロブスカイト/CIGS: 24.6%
LONGI, HZB(引用: Version 66)

商業化への影響

面積スケーラビリティのブレイクスルー
1cm²で26.9%の商業的面積達成
タンデムモジュールで30.6%
Trina, LONGI(引用: Version 66)

技術的意義

高バンドギャップセル表の新規導入
大型Siセルの基準変更
21件の新しい結果報告
Version 66の主要変更点(引用: Martin A. Green et al.)

光電変換の基本原理

1. 光吸収

太陽光がペロブスカイト層に入射し、価電子帯の電子が伝導帯に励起されます。

2. 電荷分離

励起された電子と正孔が、ETLとHTLの界面で効率的に分離されます。

3. 電荷輸送

電子はETLを通って陰極へ、正孔はHTLを通って陽極へ輸送されます。

4. 電流生成

外部回路を通じて電流が流れ、電気エネルギーとして取り出されます。

エネルギーバンド図

伝導帯 (CB)
バンドギャップ
価電子帯 (VB)
↑光励起
↓電荷分離

バンドギャップの特性

エネルギー範囲: 1.5-1.6 eV
最適波長: 775-825 nm
可視光: 最適

光吸収特性

吸収係数: 10⁵ cm⁻¹
吸収層厚: 500 nm
効率: 高効率

光励起プロセス

光子吸収
電子励起
伝導帯への遷移

電荷分離メカニズム

電子・正孔対生成
電界による分離
電流生成

物理的詳細と数値

1.55 eV
MAPbI₃のバンドギャップ
10⁵
光吸収係数 (cm⁻¹)
500 nm
最適膜厚

発電プロセスの詳細フロー

光入射

太陽光がペロブスカイト層に到達

電子励起

価電子帯から伝導帯への電子遷移

電荷分離

ETL/HTL界面での電子・正孔分離

電荷輸送

各輸送層を通じた電荷移動

電流生成

外部回路での電気エネルギー出力

光から電気への変換プロセス

1

光吸収

太陽光がペロブスカイト層に到達

2

電荷生成

電子(e⁻)と正孔(h⁺)が生成

3

電荷分離

電子と正孔が分離されて移動

4

電流生成

外部回路で電気エネルギー出力

性能低下の原因

欠陥の発生

結晶中のピンホールや界面の接触不良

キャリア捕獲

電子と正孔がトラップ準位に捕らえられる

再結合

電子と正孔が結合してエネルギーが失われる

性能低下

発電効率と出力が減少

起電力低下

電圧が下がる

効率減少

変換効率が悪化

出力損失

発電量が減少

性能指標の分析

効率の推移比較

ヒステリシス特性

n-i-p構造の課題

イオン移動によりJ-V曲線でヒステリシスが顕著。 測定の複雑化と性能評価の困難さを引き起こす。

p-i-n構造の利点

ヒステリシスが無視できる程度に抑制。 安定した性能評価と実用性の向上を実現。

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グラフデータの詳細出典

n-i-p構造データ

• 2019-2025: NREL Best Research-Cell Efficiency Chart

• 最新記録 26.21%: 清華大学 2024年3月 (認証済み)

• 新HTL材料T2と真空蒸着技術による記録

p-i-n構造データ

• 2019-2025: NREL Best Research-Cell Efficiency Chart

• 最新記録 27.3%: 蘇州大学/UNSW 2025年5月 (認証済み)

• 単接合PSCの世界最高記録更新

• 商業的面積(1cm²)で26.9%達成

• Solar Cell Efficiency Tables (Version 66) 認定

メソポーラス型構造データ

• 2017年7月: UNIST (Seok team) による最高記録

• 最新記録 22.1%: UNIST 2017年7月 (NREL認証)

• 高効率競争の主流から脱落

• 高温プロセス(450-550℃)が制約

出典: NREL Best Research-Cell Efficiency Chart, Solar Cell Efficiency Tables (Version 66)
更新日: 2025年9月時点の最新データ
認証機関: NREL, NPVM, ISFH, 清華大学, USTC, 蘇州大学/UNSW/白馬湖研究所, UNIST
最新状況: 2025年9月現在、p-i-n構造が27.3%(蘇州大学/UNSW 2025年5月)で世界最高効率記録を保持
技術的意義: 面積スケーラビリティのブレイクスルー(1cm²で26.9%)
商業化: 反転型構造が商業化の主流技術として確立
Version 66認定: Solar Cell Efficiency Tables (Version 66) で正式認定
注意: グラフの各ポイントにマウスオーバーすると、具体的な出典年と機関名が表示されます。